Haruichibanのウォーゲームのおと

80年代にシミュレーションゲームにはまったが長い冬眠に入り、コロナ禍やライフイベントの変化により、再開した出戻りヘッポコウォーゲーマーのノート。

【参考書籍】木元寛明『気象と戦術』SBクリエイティブ(2019/07/25)


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もくじはこちら


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戦場における気象の影響を、ナポレオン戦争から現代まで、陸戦、海戦、空戦を含めて分析した書籍だ。

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感想

様々な戦いの状況と気象の関連を簡潔にまとめて紹介しており、新書なのでわかりやすい。

第二次世界大戦当時と違って、現代だと気象条件をかなり克服している、と思ったが、現代でもやはり気象の影響が大きいことにあらためて驚いた。

本書に掲載されている、積雪量の影響や、体感温度図、高温時における作業時間や暑さ指数の表や、暑さ指数などは、軍事関係者だけでなく、広く一般にも、行き渡らせるべき情報だと思った。

 

第一章 「雨」が勝敗を決した戦い

ワーテルロー会戦は、前夜の大雨で砲兵の展開が4時間遅延したため、ナポレオンが勝機を逸した戦いだった。

前夜の大雨で決戦朝までに砲を展開できず、地面の乾燥を待っている間に、英軍とプロイセン軍が合流してしまい、多勢に無勢でナポレオンは敗北したのだ。

 

ディエン・ビエン・フーの戦いは、ベトミンをなめてかかっていたフランス軍が、雨季に入り、補給を空輸に頼っていたフランス軍は空輸できなくなったためだった。

 

 

接地圧

  接地圧(kg/cm2)
主力戦車(MBT) 0.8~1.2
装甲車(APC) 0.4~0.6
雪上車 0.1~0.2
乗用車 1.5~2.5
スキー 0.03~0.05
04.~0.5

雨の強さと降り方

1時間雨量(mm) 予報用語 人の受けるイメージ
10~20 やや強い雨 ザーザーと降る
20~30 強い雨 土砂降り
30~50 激しい雨 バケツをひっくり返したように降る
50~80 非常に激しい雨 滝のように降る
ゴーゴーと降り続く
80+ 猛烈な雨 息苦しいような圧迫感がある。
恐怖を感じる

 

第二章 「積雪と寒冷」が勝敗を決した戦い

ナポレオンによるロシア侵攻は、シャルル・ジョゼフ・ミナール(1781~1870)作成の「1812~1813年のロシア線駅地図」の紹介がある。

422,000人で出発したナポレオン軍がモスクワ到着時には100,000人に、ベレジナ川の渡河で50,000人が28,000人に減じ、戻ってきたのが8,000人になった状況が視覚的によくわかる。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/29/Minard.png/1920px-Minard.png

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/2/29/Minard.png/1920px-Minard.png

Wikipediaより シャルル・ジョゼフ・ミナール作成の「1812~1813年のロシア線駅地図」

 

ベレジナ川の渡河にあたって、友軍を渡過させるために寒冷な川に入ってボリソフ橋を修復した工兵隊の兵士達の犠牲があった話に感動だ。

 

ソ連とフィンランドによる冬戦争中のスオムサルミの戦闘で、フィンランド軍が、ソ連軍第163,第44狙撃師団を、モッティ戦術で撃破した戦いを紹介している。

モッティ戦術は次の三段階になる。

第1段階:偵察

第2段階:集中・機動・打撃

第3段階:殲滅

 

冬戦争で、ソ連が負けたのはわかるが、ソ連の国土も極寒なのに、なぜフィンランドが冬季対策をしていて、ソ連の冬季対策が不十分だったのか、不思議でならない。

 

1941年6月22日に開始されたバルバロッサ作戦は、ロシアの冬将軍によって挫折した。

図2積雪量の影響や、図3体感温度図は、軍事とは関連なく、認識しておくべき情報だと思った。

 

 

第三章 「視程」が勝敗を決した戦い

視程とは肉眼で大きな物体や地形の特徴を識別できる水平距離のことだ。

小銃で400m、戦車砲で1,500mの視程がないと効果的な射撃ができないそうだ。

 

1942年11月30日のルンガ沖夜戦が、レーダーに対して超人的な日本軍の能力が勝った戦いとして紹介されている。

やがてレーダーに凌駕されていくのだが・・・。

 

1991年の湾岸戦争で、イラク軍のT-72の赤外線暗視装置がパッシブ方式で感知能力は、昼間2,000m、夜間1,000m以下だった。それに対し、米軍のサーマル・ライト(熱線映像視察装置)は3,500mで、2,800mから射撃し、アウトレンジで圧倒した。

第四章 「海象」が勝敗を決した戦い

例として紹介されているのは、第四艦隊事件、と、1945年6月5日の米軍が遭遇した台風「パイパー(コニー)」との遭遇によるピッツバーグの艦首切断だ。

三角波によって、艦首が飛び出し切断されるのだ。

 

また、マレー作戦やキスカ島撤退作戦における、気象隊の活躍も紹介されている。

 

第五章 気象という名の「兵器」

仁川上陸作戦は、誰もが無謀で無理と判断したが、それだからこそ奇襲になり効果がある、と主張したマッカーサーの決断が印象に残る。

通常の、合理的な状況判断プロセスに従えば、仁川上陸作戦は「不採用」になるはずだ。だが、マッカーサーの経験、知識、信念に裏付けされた強固なリーダーシップが、合理的といえる状況判断プロセスに優越した例だ。

軍事に限らず、ビジネスの現場にも共通すると思う。

 

目的達成のために気象・自然を軍事利用した例として、サダム・フセインによる油井砲火、メソポタミア湿原を干上がらせる作戦、ベトナム戦争中の米軍による人工雨などが紹介されている。

 

また、悪天候を活かした作戦としては、バルジの戦いやノルマンディー上陸作戦をあげている。

 

第六章 気象と戦場アラカルト

雲量や雲底高度による軍事行動への影響を表にしてまとめている。

レーダーが発達した現代でもまだまだ雲による影響が大きいことに驚く。

 

また、フラー少将が暗黙知だった戦いの舷側を、形式知にして、戦いの原則(Principles of War)にまとめたものを紹介している。

 

Objective(目標)

Offensive(攻勢)

Mass(集中)

Economy of force(兵力の節用)

Maneuver(機動)

Unity of command(指揮の統一)

Security(警戒)

Surprise(奇襲)

Simplicity(簡明)

 

このうちの奇襲については、以下の6種類がある。

時間的奇襲

場所的奇襲

気象的奇襲

戦法的奇襲

技術的奇襲

空間的奇襲

 

気象はまさに奇襲だという。確かにその一面があると思う。

 

高温時における作業時間や暑さ指数の表など、温暖化している昨今の情勢を見ると、もっと国民に広く知らしめていい情報だと思う。