Haruichibanのウォーゲームのおと

80年代にシミュレーションゲームにはまったが長い冬眠に入り、コロナ禍やライフイベントの変化により、再開した出戻りヘッポコウォーゲーマーのノート。

「川の対岸に支配地域(ZOC)が及ばない」について考えてみた AH『タクテクス・II』(TACTICS・II)

先日、A氏と対戦していた時の雑談で、「作戦級ゲームでよく支配地域(ZOC:Zone of Control)(*)が川の向こう側には効果がない、とあるけど、あれは逆に川が障害にならなくておかしいと思うのですよ。」とA氏が話していた。

(*)ZOCのことを、日本語では「支配地域」や「制圧地域」「支配領域」などと訳している。AH『タクテクス・II』(TACTICS・II)では「制圧地域」と訳しているが、本記事では「支配地域(ZOC)」とする。

 

「え?何のことだろう?」と思ったので、詳しくきいてみた。

 

A氏はアバロンヒル社の『タクテクス・II』(TACTICS・II)を例して説明した。

ホビージャパン発行『シミュレーションゲーム入門ガイドブック 附●TACTICS・II タクテクス・II』のp.48ルール[17.34]に「部隊が、たとえ敵部隊と隣接しても、その部隊どうしの間が川があれば、敵に隣接した部隊は、そこで移動をやめることはありません。なぜならば、川の向い側には、部隊の制圧地域が及ばないからです。」とある。

 

例えば、下の写真のように赤軍が川に沿って防衛戦を敷いたとする。

 

ルール[17.34]に基づくと、赤軍の支配地域(ZOC)は、下の写真のピンクの部分になる。

黄色い部分には支配地域(ZOC)が川向うのため及ばない。

そのため、青軍は黄色いスクエアを自由に移動できる。

 

そうすると、この例の場合、下のように移動できてしまう。

2個の機甲師団赤軍第2歩兵師団を包囲し後退できなくした上、4-1の戦力比で攻撃できるのだ。川がなければこの2個の機甲師団は写真の①の場所で停止しなければならず、赤軍第2歩兵師団は後退可能なスクエアが残り包囲されないのだ。

川があるために赤軍第2歩兵師団は、川がないときに比べて不利になってしまったのだ!!

「よく川の対岸で防衛線を張ることが多いが、支配地域(ZOC)が川の対岸に到達しないために、逆に防御側が不利になるのは、ルールとして正しくないのではないか?」というのがA氏の疑問だった。

 

確かにその通りだ。これでは川を使って防衛線を張ろうとすることはないだろう。

 

この例の場合、下の写真の黄色いスクエアには青軍の支配地域(ZOC)が効いていないので赤軍は、青軍側に向かって渡河して「後退」できることにはなるが、それは現実的なのだろうか?

ヘクスを使っているゲームでも同様になるはずだ。

 

問題は、「川の対岸に支配地域(ZOC)が及ばない」という記述にあると思う。

 

川を渡河する時の移動力は徒歩に比べると遅いので、銃や砲の格好の的になってしまうだろう。

第二次世界大戦以後のゲームならば、支配地域(ZOC)が及ぶべきだと思う。川の対岸に届く射程や射撃頻度が十分だからだ。

弓矢や火縄銃しか遠距離射撃の武器がない時代がテーマのゲームならば、支配地域(ZOC)が及ばなくてもいいだろう。川の対岸に射程が届かなかったり命中率が悪くなるからだ。

 

他のゲームのルールを確認してみた。

ルールAは、Napoleon At War(NAW)シリーズのルールだ。

■ルールA

[1]川の対岸には支配地域(ZOC)は及ばない。

[2]敵支配地域(EZOC)内にいる部隊は必ず敵ユニットを攻撃しなければならない。

[3]攻撃側部隊の全てが川の対岸の敵部隊を攻撃する場合、防御側の戦力を2倍にする。

[4]移動開始時に敵支配地域(EZOC)から離脱することは、戦闘の結果以外には不可能である。

 

川の対岸には支配地域(ZOC)が及ばないから、対岸にいる敵ユニットを前にして停止する必要がない。対岸には支配地域(ZOC)が及ばないから攻撃義務はない。渡河して敵支配地域(EZOC)に入ると攻撃が必須になる。

ナポレオン時代の銃砲で渡河中の敵を射撃した際の効果がどの程度か議論があるだろう。

このルールだと、戦闘力の強い部隊を渡河させ、不利な戦闘力での戦いを対岸の敵に強制させることができそうだ。

 

これは実際に試してみたい。

 

ルールBは、SPI/HJ社Victory in the Westシリーズのものだ。

■ルールB

[1]支配地域(ZOC)は地形に関係なく隣接ヘクスに及ぶ。

[2]敵支配地域(EZOC)内にいる部隊が敵ユニットを攻撃するのは任意である。

[3]攻撃側部隊の全てが川の対岸の敵部隊を攻撃する場合、防御側の戦力を2倍にする。

[4]移動開始時に敵支配地域(EZOC)から移動するには許容移動力の半分を余計に消費する必要がある。

 

これだと川を使って防衛線を張る意味が出てくる。

 

HJ『マーケットガーデン作戦』(Operation Market-Garden)では、次のようになっている。

■ルールC

[1]支配地域(ZOC)は移動できないヘクスに対して及ばない。支配地域(ZOC)は移動できないヘクスサイドを通しては及ばない。都市ヘクスの中に対しては及ばない。

[2]敵支配地域(EZOC)内にいる部隊が敵ユニットを攻撃するのは任意である。

[3]移動開始時に敵支配地域(EZOC)から移動するには1移動力余計に消費する必要がある。

 

機甲師団は橋以外で川を渡れないので、これだと川を使って防衛線を張る意味が出てくる。戦車が移動できなくても主砲や機銃で射撃できるから支配地域(ZOC)が及んでもいいのではないか、とも思うが、防衛線を張る意味は出てくるルールだからこれはありだと思う。

 

AH『タクテクス・II』(TACTICS・II)は、第二次世界大戦以後の仮想戦ゲームなので、より現実的なルールにするならば、次のようにするべきだろう。

■ルールD

[1]川の対岸にも支配地域(ZOC)は及ぶ。敵支配地域(EZOC)に入った部隊はそこで停止しなければならない。

[2]AH『タクテクス・II』(TACTICS・II)の場合、川がない場合、隣接している敵部隊への攻撃は必須だが、川の対岸の敵を攻撃するのは任意とする。

[3]攻撃側部隊の全てが川の対岸の敵部隊を攻撃する場合、防御側の戦力を2倍にする。

[4]移動開始時に敵支配地域(EZOC)から離脱することは、敵部隊との間に川があってもなくても、通常ルール通り、追加移動力なしに移動可能である。

 

[1]のため、下の写真の黄色い部分も赤軍の支配地域(ZOC)である。そのため、青軍は黄色いところに前進した時点で停止しないといけない。

[2]のため、仮に青軍が黄色いスクエアに侵入しても赤軍は不利な攻撃を強制されない。

 

こうすることで川で防衛戦を張ることの意味が出てくる。

 

「支配地域(ZOC)が及ばない」という記述は、簡潔な記述だが、いろいろと考えさせられるものだ、とつくづく思った。