Haruichibanのウォーゲームのおと

80年代にシミュレーションゲームにはまったが長い冬眠に入り、コロナ禍やライフイベントの変化により、再開した出戻りヘッポコウォーゲーマーのノート。

【参考書籍】大木毅『指揮官たちの第二次大戦』新潮選書(2022/05/22)

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第二次世界大戦を戦った将軍達12人の列伝だ。

南雲忠一大将が園遊会で放尿するような豪胆な一方で爪かみ癖があったのは意外だった。

ナチス党員ではなかったからヒトラーの後継者に指名されたと思っていたカール・デーニッツ元帥がナチスの支持者だったのも驚いた。

パットン大将が作戦術は優れていたが戦略面では評価されていなかったそうだ。アメリカにおける軍人評価軸が日本とは違うためだ。

水上源蔵中将はビルマで戦った人だが、辻政信によって死地に追いやられ、部下の命を守り命令違反にならないようギリギリの選択をせざるを得なかったのは日本陸軍の人命軽視の体質に怒りを覚えるのは私だけだろうか。

トム・フィリップス大将はマレー沖海戦プリンス・オブ・ウェールズとともに沈んだ指揮艦だ。彼は部下から退艦をすすめられたときに「No thank you」と答えたと言われていた。だがそれは英国では全く広まっていない話だった。これはプリンス・オブ・ウェールズの生き残り水平ジェームズ・ミルンが同盟通信社の記者齋藤桂助に語った作り話だったようだ。だが、日本人の琴線に触れ、日本の艦長や司令官は艦と運命をともにする者が増えた、という話は驚きだ。

ハンス・ラングスドルフ大佐はアドミラル・グラフ・シュペーに乗艦し追い詰められて乗員を退艦させた後自決した。ナチス時代、彼の行動は評価されず恩給も削減された。戦後もドイツで彼は「アウトサイダー」視され、タブーだったようだ。

山口多聞中将が開成中学(旧制)出身のエリートだったとは。彼はミッドウェー海戦で飛龍とともに沈むのだが、南雲忠一大将のように生きていたらもっともっと活躍できたのではないだろうか。著者大木毅氏が「可能性の名将」と評しているが、同感だ。

ウィリアム・スリム元帥はインパール作戦で日本軍の相手となった指揮官だ。日本では、イギリス軍から見たインパール作戦についてはあまりクローズアップしていない。本書でウィリアム・スリム元帥の生涯を読んで、インパール作戦が失敗したのは当然だという思いがまた一段と高まった。イギリスは階級社会ではあるが、彼のような「焼き印のない牛(マーヴェリック)」(異端者)を許容し出世する柔軟性も持っているそうだ。

昭和の日本軍にはそういう寛容性はなく柔軟な人事ができなかったことも敗戦の一つの原因だと思った。

 

人物を評価するのは難しいことだ。新事実がわかって評価が一変することもある。

本書は様々な逸話や証言から、指揮官達の別な一面を読み解いており、なかなか興味深い評伝になっている。