もくじは以下のとおりだ。
まえがき
第一部 待機
第二部 その前夜
第三部 その日
Dデーの戦死傷者に関する注記
謝辞
訳者あとがき
『史上最大の作戦』という映画にもなった戦記ノンフィクションの傑作だ。
写真や地図もあるが、サンケイ出版のR・W・トンプソン/宮本倫好訳『Dデイ ノルマンジー上陸作戦』(D-Day)の地図を見ながら、読んだ方がいい。
本書の地図はあまり参考にならないからだ。
3年の月日と1000人を超える人々への取材と700人あまりの人々へのインタビューを通してノルマンディー上陸作戦全体について描いたノンフィクション作品だ。
将軍達もそうだが一介の若い米英独加軍の兵士達や、フランスのレジスタンスや市民達や家族達も含めて、個々人のエピソードがどれも印象深い。
p.79にはX-23という5名が乗った全長15m重量30tほどの小さな特殊潜航艇が輸送船団の針路を示すためにノルマンディーの沖合に潜航している話が出てくる。Dデイ延期により24時間任務が長引いたのだが、見事に任務を果たして、国旗をはためかせて帰還する話も印象的だ。
p.113にあるエレベーターシューズのダイレクトメールのエピソードは微笑ましい。どうやら身長を高く見せる靴のことのようだ。この頃から販売されていたとは驚いた。
p.166では、サント・メール・レグリーズの村に住む60歳の教師アンジェル・レヴロー夫人が、夜中、トイレに起きると、降下してきた米第82空挺師団第505連隊ロバート・M・マーフィー二等兵と目が合った。彼女は、この戦いで最初に米軍兵士を見た人になった。
p.361に登場するポーランド人アロイジウス・ダムスキー二等兵は強制的にドイツ軍に編入され連合軍と戦う気など全くなかったが連合軍に投降するチャンスを失った。この戦争の多面性を見事に描き出している。
p.362に登場するドイツ軍ヴィルヘルム・フォークト軍曹は17年もシカゴで生活していたのに、妻がドイツの実家に戻り帰れなくなったので、日本=>ソ連=>ドイツに向かい、そこでDデイを迎えたエピソードも印象的だ。
p.369に登場するドイツ軍ヨーゼフ・プリラー中佐は、たった2機でドイツ空軍唯一の反撃に飛び立った。松本零士氏の『戦場漫画シリーズ』になりそうな哀しいエピソードだ。
p.401に登場する51歳で前線に立ち部下を鼓舞する米第29歩兵師団副師団長コータ准将の話も印象深い。
書いていくとキリがないのでこの程度にしておくが、サンケイ出版のR・W・トンプソン/宮本倫好訳『Dデイ ノルマンジー上陸作戦』(D-Day)が、淡々と作戦の推移を述べているのに対し、本書は、その時生きていた人間を描いている作品だ。
戦争も人間が行う究極の行為であり、全力で生きようとしている人間達の物語であることに改めて気づかされた。
映画の方もまた見てみたい。