◆ウォーゲーム日本史(国際通信社) 第6号 『箱館戦争/箱館湾海戦』
ウォーゲーム日本史第6号の付録ゲーム『箱館戦争』をA氏と再戦した。
このゲームは箱館戦争全体をシミュレートしたゲームだ。
マップは北は乙部、鷲ノ木、南は松前、函館が範囲だ。ヘクスではなくポイント・トゥー・ポイントで表している。
1869年(明治2年)4月9日から5月18日までの約1ヶ月を扱っている。
カード・ドリブンのゲームで、カードの山が2回なくなるとゲーム終了だ。
1ユニットは海軍が1隻、陸軍は指揮官1名や1隊だ。
ゲーム手順は次の通りだ。
1)新政府軍が自分の山の一番上のカードをめくる
2)新政府軍が相手のオープンカードと自軍のオープンカードを使って、「作戦」「イベント」を実行する。
3)旧幕府軍が自分の山の一番上のカードをめくる
4)旧幕府軍が相手のオープンカードと自軍のオープンカードを使って、「作戦」「イベント」を実行する。
2)と4)では、次の三種類の行動がとれる。
「作戦」「作戦」
「作戦」「イベント」
「イベント」「イベント」
特徴的なのは、相手のカードと自軍のカードの両方を使うことだ。
相手が何をする可能性があるかは、半分はわかっており、半分は相手がどのカードを引くかによるのでわからないのだ。
戦場の霧をうまく現している面白いシステムだ。
勝利条件はカードが全てなくなった時点で重要拠点を3箇所新政府軍が獲得していたら新政府軍のサドンデス勝利だ。
または、カードが2回全て無くなった時点で重要拠点6箇所を新政府軍が獲得していると新政府軍の勝利だ。
それ以外は、旧幕府軍の勝利になる。
ちなみに本ゲームのVASSALモジュールはこちらにある。
◆ウォーゲーム日本史(国際通信社) ─ VASSALモジュール
カード・ドリブン方式のゲームはどんなカードが何枚あり、それぞれのカードで何ができるか知っていないと自由に動けない。
私が旧幕府軍、A氏が政府軍を担当した。
さてどうなるか?
目次
■初期配置
政府軍には下図の5本の進撃路がある。旧幕府軍はこの5本全てを守る兵力はない。
今回、旧幕府軍としては、敵の上陸をなるべく海岸で押しとどめて、箱館に迫る時間を少しでも長引かせることを目標にして戦うことにした。
そのために政府軍が上陸しやすい3の上陸拠点に上陸させないように部隊を配置した。
■前半戦(1869/04)
政府軍は、旧幕府軍が部隊配置できなかったただ一つの3の拠点鷲ノ木に黒田清隆隊が上陸した。
政府軍は「遊撃隊」カードで弁天台場の戦力を1低下させた。
旧幕府軍は「芯止之松」カードで政府軍による攻撃を回避する。
森にいる大鳥圭介隊は峠下に後退した。森で戦っても、政府軍6戦力に旧幕府軍2戦力ではとうてい勝てないからだ。
政府軍は森に前進するか、森に上陸するか、茂草に上陸するか悩み長考する。
結局、茂草に山田顕義隊を上陸させた。
政府軍は松前攻略のため茂草に、峠下攻略のため森に、部隊を集結させる。
12戦力を集めた山田顕義は、そのうち10戦力を松前攻略のために移動させ、2戦力を茂草防衛に残した。
松前を守備していた彰義隊は全滅し、松前は陥落した。この時、隣町の福島から松前に来ていた後の大横綱千代の富士のおじいさんは、福島の自宅まで走って退却したそうだ。というのは嘘だが、千代の富士がこの辺りの出身であることは本当だ。
ここでルール上の疑問点が一つあった。
艦砲射撃の際、砦を攻撃するときの攻撃力は半分になるのだろうか?
私の考えは「砦の防御は、陸海両方を想定していなくてどちらかだけ想定しているだろう。通常、陸に向けていて、海からの攻撃は想定していないだろうから、艦砲射撃の際、攻撃力は半分にしなくていいだろう。」というものだ。
大東亜戦争で日本軍が攻略したシンガポール要塞は、海からの攻撃を想定していたが、陸からの攻撃を想定していなかったため、あっさり陥落した。
その考えで攻撃力を半分にしなかった。
後で、ルールブックp.6 下に「部隊駒同士の戦闘と同じ方法で解決」とあるのを発見したので、今後は砦を艦砲射撃したときも攻撃力半分にすることとした。
政府軍は1打撃をこうむった。
場に「海軍作戦」カードが出ていて、旧幕府軍が使った、ということは政府軍も使える、ということだ。ここがこのゲームの面白いところだ。
政府軍は甲鉄、朝陽、陽春を出撃させ、海戦を挑む。海軍力の弱い旧幕府軍としては、先に政府軍が海軍を動かしたのを見てから自軍の海軍部隊を動かすべきだった。ここでA氏の「待った」があり、陽春は海戦に参加させず、甲鉄、朝陽の2隻と旧幕府軍の回天と千代田型の海戦だ。
甲鉄と回天がそれぞれ損害1を出した。
知内に山田顕義が前進した。
そこを大鳥圭介と額兵隊と伝習士官隊が夜襲する。夜襲の時、政府軍が振れるダイスが半分になる。
政府軍津軽隊は2打撃をこうむった。
旧幕府軍が知内に前進した時、無人になった木古内砦を政府軍が占領した!!
政府軍は2打撃を受けて稲穂峠に撤退した。
森に兵力を集結させていた政府軍が、満を持して峠下攻略に黒田清隆率いる8戦力の軍を進めた。
守るのは土方歳三率いる2戦力の陸軍隊だ。
土方隊は1打撃をこうむり、大野に後退した。
木古内奪還のために旧幕府軍は部隊を移動させたため峠下が手薄になった。政府軍のこの動きを結果から見ると山田顕義が囮になり、黒田清隆隊が箱館に向けて前進した。
A氏は「上ノ国に見国隊に上陸されると、山田顕義が包囲されて苦しいんだよなぁ・・・」と呟く。百戦錬磨のA氏がこう言うということは、見国隊に上ノ国に行ってほしいからだろう。何を考えているのだろう?榎本武揚は疑心暗鬼になった。
結局、見国隊は四稜郭に入った。上ノ国には、乙部にいた伝習歩兵隊を移動させて、山田顕義隊を包囲した。
6箇所の重要拠点のうち、政府軍が占領したのは松前だけなので、政府軍のサドンデス勝利はなく、後半戦に継続だ。
■後半戦(1869/05)
山田顕義は上ノ国へ向かって移動する。別方向からも上ノ国へ部隊が移動する。
ここでルール上の疑問点が出た。別方向にいる指揮官は指揮能力を使えるのだろうか?
当時は無線機も電話もないし、日本の国土だと道と道の間は通れない山があるので、連絡不能で別ルートだと指揮できないだろう、ということで、別ルートでは指揮能力は使えない、とした。
峠下を、土方歳三と見国隊が夜襲し、黒田清隆は小便と大便を漏らして大慌てで森に後退した。
旧幕府軍も損害が大きく、陸軍隊が壊滅し、見国隊も1打撃を受けた。
森に後退した黒田清隆は、「ズボンが濡れているのは雨のせいだ。ズボンの茶色いシミは、泥だ」と言い張り、「すぐに峠下を奪還するぞ。森にいる全軍で攻撃だ!」と命じる。
旧幕府軍見国隊が全滅し土方歳三も戦死した。「としちゃんかんげき~!!」
旧幕府軍は二股にいた会津遊撃隊1戦力を大野に送り、黒田清隆隊が箱館に向かうのを阻止しようとする。
だが、6戦力の黒田隊には歯が立たず、鎧袖一触されて壊滅した。
これで、鶉にいる伝習歩兵隊は孤立した。
旧幕府軍の幡竜が沈没した。政府軍の甲鉄も損害を受けて累積2になった。
政府軍は大野から四稜郭に前進する。
大兵力なので正攻法で攻めても問題無く前進できる。
四稜郭が陥落した。
この時点で、政府軍は6箇所の重要拠点の家、松前と四稜郭の2箇所を占領している。旧幕府軍は矢不来、二股、七里浜、弁天台場の4箇所と五稜郭を確保している。
旧幕府軍の私は「早くカードが全部終わってゲームオーバーにならないかなぁ・・・」としきりに思う。こういうときはカードの減りが遅い。
政府軍は七里浜を占領した。
海軍作戦カードが出たので、旧幕府軍は第二次箱館湾海戦を挑む。
旧幕府軍のダイスは2と3。政府軍のそれは5,5,5!!
旧幕府軍は艦隊の全てを失った。
旧幕府軍は、政府軍がわずか1戦力で守る大野を、攻撃する。敵の弱点を背後から攻撃するゲリラ戦だ。
政府軍は峠下に退却した。旧幕府軍は大野を占領した。
七里浜を占領した政府軍は矢不来に向かった。
これにはちょっと驚いた。五稜郭に突進してくると思ったからだ。五稜郭への圧力が減った。
あらためてこの時点の盤面を見てみると、政府軍は上ノ国に山田顕義がいて、松前や福島にも遊軍になっていて、兵力が分散している。
矢不来を守っていた部隊が全滅した。
ここはルールが不明瞭なところだ。A氏と私の間では、部隊が全滅する打撃力+1の時、指揮官も除去する。部隊が全滅する打撃力の場合、指揮官は退却ルールに従って退却する、とした。そして指揮官だけがいても戦闘を通常通り行う、とした。ただし指揮官は攻撃力0なので、攻撃を受けても反撃はできない。1打撃力で指揮官は除去される。
旧幕府軍は箱館への圧力が減ったので、七里浜と四稜郭を奪還し、峠下を占領した。
旧幕府軍部隊は残り6ユニットだけだ。
これでなんとしても重要拠点を守り切って勝利しないといけない。
カードはあと何枚残っているのだろうか?早く終わってほしい。
政府軍はまた半島東岸に向かって部隊を動かして、川汲に2戦力が移動した。
政府軍は七里浜に攻撃を仕掛け、再占領した。
旧幕府軍のダイスは後半戦に入ってから、1か2しか見ていない。
旧幕府軍はゲーム上の勝利条件確保のために、一聯隊を二股へ移動させ確保する。
矢不来には大鳥圭介だ。
川汲からの背後からの攻撃にも備えないといけないので湯ノ川に社陵隊を送る。
黒田清隆隊が四稜郭を攻撃し、占領した。
政府軍は湯ノ川を攻撃し占領した。
政府軍は、大鳥圭介だけで守る矢不来を攻撃する。
政府軍のダイスは4
旧幕府軍のダイスは6!!
旧幕府軍のダイス目>政府軍のダイス目なので、政府軍は後退する。
ここで1回、重要拠点を守ったのは大きい!!
そしてカードは「芯止之松」このカードが出ると次のプレイヤーターン、相手は攻撃できない。
そしてここでカードがなくなりゲームオーバーだ!!
■勝利条件の確認
重要拠点は、弁天台場、七里浜、四稜郭、二股、矢不来、松前の6箇所だ。
勝利条件を確認すると、政府軍が占領したのは、七里浜、松前、四稜郭の3箇所だ。
旧幕府軍は二股、弁天台場、矢不来を保持している。
政府軍が全重要拠点を占領できなかったので、旧幕府軍の勝利だ。
■感想
このゲームは少ないユニット数と小さなマップのため、一手のミスが命取りになるので、緊張感があって面白い。
カードで何が出るかによって戦勢が変わるのも面白い。
今回、戦闘では政府軍が圧勝しており、両軍の損害は下の図のとおりだ。
旧幕府軍は4ユニット7戦力と2人の指揮官しか残っていない。
次ターンがあれば無人の弁天台場を政府軍が占領し、指揮官1人だけの矢不来も攻略確実だろう。二股も黒田清隆が6戦力で占領するだろう。そうなれば政府軍が6個の重要拠点全てを占領して勝利できただろう。
今回、どうして旧幕府軍が勝てたのか不思議だ。
個々の戦闘では政府軍が圧勝していたし、旧幕府軍のダイス運は後半メタメタだった。
どこでどう戦勢が変わったのかよくわからない。
政府軍の敗因としては、遊軍が多かったことだろう。山田顕義隊が稲穂峠や上ノ国で遊軍になってしまった。松前や福島にいる部隊も遊軍になった。
箱館を攻める部隊が少なくなり、占領した重要拠点に十分な戦力を遺せなかった。占領すると、背後から奪還され、奪還するために戻ると、また別な所が奪還されたので何度も往復することになった。その間に旧幕府軍は戦力をすりつぶしていったが、時間を稼ぐことができた。
そして最後は「芯止之松」で政府軍は攻撃できなくなってしまった。
この後、歴史はどうなっただろうか?
海軍が全滅し陸軍がこれだけ損害を受けると、ゲーム的には勝利でも、旧幕府軍は、政府軍と講和を結ぶしかないだろう。
講和内容は、次のような条件になるのではないか。
2. 生き残った旧幕府軍勢力の罪は不問とする。
4. 旧幕府軍兵士たちで希望する者には、政府が職を与える。
5. 旧幕府勢力が外国と結んだ約束は反故にし、政府が主導して蝦夷地開拓を進める。
こうしてみると、ゲーム的には勝利だとしても、榎本武揚ら旧幕府軍が何を目指して戦ったのか、そこに見込みがあったのかは、わからない。滅ぶのがわかっていても戦った、あるいは死に場所を求めて戦ったかのように思える。それはそれで戦いのロマンがあるのだが、なんだかやるせないものがある。
榎本武揚と幻の蝦夷共和国政府については、『歴史群像』No.183に良記事が出ていて参考になる。
haruichiban0707.hatenablog.com