国際通信社の『コマンドマガジン』第177号を読んでみた。
付録ゲームは『ヴュルツブルク』(Wurzburg)だ。
もともとはSPI『Modern Battles』の4ゲームのうちの1つだ。
他の3作品は、『Chinese Farm』『Golan』『Mukden』だ。
『Chinese Farm』『Golan』は『タクテクス』(TACTICS)誌の付録ゲームにもなった。
4ゲームのBoardgamegeekへのリンクはこちらだ。
目次は次の通り
- p.4 冷たい戦争に吹き荒れる熱風ー東西ドイツを挟んだ戦争の可能性ー 文/宮永忠将
- p.8 冷戦下のシミュレーション 『ヴュルツブルク』プレイレポート 文/じんぼただとし
- p.28 NEXT ISSUE 碧蹄館の戦い コマンドマガジン編集部
- p.30 歴史無駄ばなし ヒトラーのイギリス兵 大木毅
- p. 32 新シミュレーションゲーム批判序説 フランク・チャドウィックのゲーム(第三回) 砂漠のチャドウィックとダブルブラインドシステム 高梨俊一
- p.42 AGE of DOGFIGHT 空戦ゲームを楽しく遊ぶための方法 文/じんぼただとし
- p.54 ウォーゲーム・メカニクス 第25回 Line of Sight 文/堀場亙
p.4 冷たい戦争に吹き荒れる熱風ー東西ドイツを挟んだ戦争の可能性ー 文/宮永忠将
東西冷戦の歴史を概説している。
イランにかつてあったクルド人国家マハバード共和国を巡る米ソの思惑。
イギリスのギリシャ内戦介入と脱落。
野戦重砲の代用としての核兵器とそれによって困難になった大規模な部隊集中
持っていても使えない核兵器。
キューバ危機
ソ連によるアフガニスタン侵攻がソ連の侵略性や攻撃性を示すものではなく、自衛戦争だったという話。
[感想]
マハバード共和国の話は知らなかった。
東ドイツ軍が西ドイツ軍に比べて小規模だったことも意外だった。
キューバー危機は冷戦が第三次世界大戦に進展する一歩手前だったと思っていたが、フルシチョフは戦争準備ができていなかった、というのは意外だった。
この記事を読んでいると、冷戦期の東側軍隊は、そんなに恐れる必要はなかったように思えるが、意外だった。
p.8 冷戦下のシミュレーション 『ヴュルツブルク』プレイレポート 文/じんぼただとし
付録ゲーム『ヴュルツブルク』(Wurzburg)のルール解説とプレイレポートだ。
基本的なシステムは、『Napoleon at War』シリーズで、マスト・アタックで戦闘結果でしかZOCから離れられないシステムだ。
戦闘結果表が「突撃戦闘結果表」と「機動戦闘結果表」の2種類あり、自分の手番中にどちらかしか使用できない。戦力差方式だ。
橋が全て破壊されている。
砲兵は3ヘクスの射程を持ち、攻撃時の弾幕射撃と防御時の防御射撃ができる。
4つのシナリオが用意されている。
プレイレポートは<ケース4:メインリバーライン>で、10ターンだ。
[感想]
「今となっては”異世界の歴史”となってしまったが、「冷戦」を肌に感じ取れる世代としてはある意味において「ヒストリカル」な歴史を体験できるゲームとして受け入れられると思っている。」という文を読んでまさにそのとおりだと思った。
冷戦期のゲームは私は基本的に手を出してこなかったが、2024年から見ると、冷戦期ももう30年以上昔の過去の歴史的出来事で、まさに”異世界の歴史”だ。
これからは冷戦期のゲームもプレイしてみようと思った。
p.28 NEXT ISSUE 碧蹄館の戦い コマンドマガジン編集部
次号の付録ゲームの紹介だ。豊臣秀吉による「唐入り(朝鮮出兵)」「文禄の役」クライマックスの「碧蹄館の戦い」だ。デザイナーは吉川龍虎氏だ。チットプルシステムだそうだ。
楽しみだ。
p.30 歴史無駄ばなし ヒトラーのイギリス兵 大木毅
ジャック・ヒギンズ『鷲は舞い降りた』の小説にはあったが映画で割愛されたキャラクターにイギリス人武装親衛隊員のハーヴィ・プレストン少尉がいるそうだ。
イギリス人SS将校というのは現実にいて、ジョン・アメリーという。彼は過激な反共主義者になりナチズムに共感を覚え、フランスに渡り、ベルリンに向かい、「聖ジョージ英人兵団」への応募を呼びかけ、それは「イギリス義勇軍」と改称された。だが、在隊していた人は少なく、最盛期でも27名程度だったそうだ。1945年3月、武装親衛隊第11義勇装甲擲弾兵師団「ノルトラント」の麾下におかれたが、1945年4月、ソ連軍を振り切り西進して英米軍に投降せよと命じられた。メンバーはほとんどが有罪となり禁固刑を言い渡されたが、ジョン・アメリーは反逆罪で1945年12月19日に絞首刑にされた。
[感想]
こんな人が実在していたとは知らなかった。第二次世界大戦の多様さ複雑さの一端が垣間見えるエピソードだ。
p. 32 新シミュレーションゲーム批判序説 フランク・チャドウィックのゲーム(第三回) 砂漠のチャドウィックとダブルブラインドシステム 高梨俊一
GDWで一世を風靡したフランク・チャドウィックの北アフリカ戦線ゲームの紹介とダブルブラインドシステム陸戦ゲームの紹介記事だ。
1975年『フォールオブトブルク』(The Fall of Tobruk)
1978年『オペレーションクルセイダー』(Operation Crusader)
これは1941年5月から11月にかけてのブレビティ、バトルアックス、クルセイダー作戦を大隊/中隊レベルでプレイするマップ5枚のビッグゲームだ。プロットによる同時進行システムだ。
1979年『ベダフォム』(Beda Fomm)
120シリーズの一作だ。
ダブルブラインドシステムは海戦ものではいくつかあるが、陸戦ものでは、1979年『シティファイト』(City Fight:Modern Combat in the Urban Environment)が最初だろう。
作戦級ゲームでは、1980年『NATOディビジョンコマンダー』(NATO Division Commander)が最初だろう。
1983年GDWからダブルブラインドシリーズが三作発売される。
1983『ノルマンディ・キャンペーン』(The Normandy Campaign)
1984『第8軍:オペレーションクルセイダー』(8th Army:Operation Grusader-The Winter Battle for Tobruk, 1941)(CMJ53『砂漠の第8軍:クルセイダー作戦』
1985『オペレーション・マーケットガーデン』(Operation Market Garden:Descent into Hell)(CMJ115『マーケットガーデン作戦』
3Wにも3作のダブルブラインドゲームがある。タイ・ボンバの処女作『ウェストウォール』(West Wall)もその一つだ。
筆者の高梨俊一氏は、GDWは戦術的色彩が強く、3Wは戦略的で敵情不明をダブルブラインドで表現しているが、裏返しユニットやダミーカウンターで表現できる、と評価している。
敵情の不確実性を具体的に表現しスリリングにしている点、敵プレイヤーターンの退屈を解消する点について、高梨氏は評価している。ダブルブラインドシステムの問題点は、手間がかかること、プレイヤーの不正を防げないこと、ソロプレイが難しいことだ。
[感想]
ダブルブラインドシステムのメリットデメリットがよくわかる記事だ。
ダブルブラインドシステムがウォーゲームの確立したシステムの一つになれなかった理由として「戦場の霧を表現してしまったことも挙げられるかもしれない。」と書いているのは意外だった。
現実には多々ある戦場の霧を表現しないウォーゲームにウォーゲームの魅力があるのか?戦場の霧を表現したことがスタンダードになれなかったとはどういうことか?と思った。
私は、当時の将軍や兵士が感じたことを追体験することにウォーゲームの魅力を感じているのだが、「神の視点で戦場のすべてを見渡すことができることも、ウォーゲームの重要な魅力の一つだった。」という高梨氏の一文を読み納得した。
客観的に神の視点で戦場を見て、史実と異なる作戦や歴史のifを試してみるのも、ウォーゲームの魅力の一つなのは確かだから、戦場の霧を表現してしまったら神の視点に立てないのだから、この理由には納得だ。
p.42 AGE of DOGFIGHT 空戦ゲームを楽しく遊ぶための方法 文/じんぼただとし
『Age of Dogfights:WWI』をプレイするための簡単な説明記事。
「空戦ゲームは「ゴルフ」のアプローチに似ているかもしれません。」と空戦ゲームのハードルの高さを下げるためにゲームに対する考え方の基本姿勢を説明している。
[感想]
このゲームをしばらくプレイしていないが、またプレイしてみたくなった。
p.54 ウォーゲーム・メカニクス 第25回 Line of Sight 文/堀場亙
戦術級ゲームで採用されている「Line of Sight」通称「LOS」についての説明だ。
[感想]
AH『パンツァーブリッツ』(Panzer Blitz)はプレイしたことがないが、現在の目で見るとLOSルールは変わっていて意外だった。
あるスペースから見える範囲はそのスペースと同じ色が付いているゲームがあるそうだが、これはマップ作成が難しそうだ。
ミニチュアゲームでは「ペリスコープ」方式を採用したゲームがあるそうだが、これは技術が進歩した現代だといろいろ作れるのではないだろうか。
177号はなぜか6月20日よりも早く到着した。
思いがけずポストに入っていた本誌を見たときは嬉しかった。
次号も楽しみだ。