先の戦争を語る時、満洲事変から語り始めることが多いが、本当は日英同盟廃棄が大きな転換点だったのではないか、と思ったことが、本書を読み始めたきっかけだった。
そう思ったのは、国際的な孤立=>短期的な視点で日独伊三国同盟を締結=>連合軍との戦争に突入=>敗戦に至ったと思ったからだ。
「日英同盟廃棄に至った理由は何だったのか?日本史や世界史の授業で習ったかなぁ?」と思った。当時の教科書を持っていないので定かではないが、なんとなく「ワシントン会議で、海軍軍備縮小をはかるワシントン条約を結び、同時に日英同盟も破棄された。」と学んだだけの気がする。
本書には、日英同盟締結前の状況、日英同盟締結後の日英関係、日英同盟破棄に至った経緯、国家間の同盟と今後の日本の同盟に関する意見が、わかりやすくまとめてある。
日英同盟締結前の列強と呼ばれた帝国主義諸国の清に対する対応のひどさには驚いた。義和団事件の時に軍隊を出した列強諸国は乱を鎮圧させるだけではなくドサクサに紛れて乱と無関係な都市を占領したり略奪したり既成事実を作って植民地化しようとしていた。日本は真面目に対応していたのだ。
日英同盟締結の理由は、ロシアの脅威という共通の敵だった。日露戦争ではその目的に対して十二分に機能を果たした。
第一次世界大戦では、日本艦隊が地中海まで遠征して商船隊を護衛したり、当時イギリスの植民地だったオーストラリア、ニュージーランドをドイツ軍による通商破壊作戦から守ったりしていた。驚いたのは当時の日本では「なんで日本軍がイギリス商船隊やオーストラリア、ニュージーランドを守らないといけないのだ。守る義務などない。」という論調が主流だったことだ。なんだか湾岸戦争やイラク戦争の時の集団的自衛権がああだ、こうだ、という議論と重なった。
「日本の方が負担が大きい。」という議論もあったようだが、日米安全保障条約をめぐる議論と重なる。
日英同盟破棄に至った理由は、本書では、第一次世界大戦後、アメリカの軍事力・経済力が相対的に大きくなったことをあげている。アメリカが、日英の密接な関係を切り離した、というのだ。イギリスは、アメリカと組むか日本と組むか考え、アメリカと組む方を選んだのだ。
日本は離婚に至った夫婦のような衝撃を受けたようだ。国際社会に出て間もない日本の同盟に対する考えは一生添い遂げる結婚のような考えだったようだ。国益で同盟を結んだり破棄したりすることをいとわない列強とは異なっており、日英同盟破棄から反英の世論も出たようだ。そして「これからは自分自身で自国を守るだけの軍備を持たなければならない。」という考えに至ったようだ。
その頃の日本に対するアメリカの態度はひどいものだった。
第一次世界大戦後のパリ講和会議で日本が国際連盟規約に人種差別撤廃を定めようとしたことを否決したこと、人種差別意識、黄禍論、貿易制限、移民制限、ワシントン軍縮条約とロンドン軍縮条約による不公平な比率(もっとも当時の国力から見ると日本にとってはメリットの方が大きかったが)などなど。現在の米中対立の比ではない。よく1941年12月8日まで我慢したものだ、と思う。
日英同盟を続けるためにはアメリカに対して相当妥協しなければならなかっただろうが、それでも日英米が何らかの形で同盟関係になっていたら、歴史はどうなっただろうか?
帝国主義時代ほどではないが、現代でも、国家間の同盟や条約は、国益に基づきドライに締結したり変更したり破棄したりされるものである。そんな冷徹な国際関係を考える上で、本書はいいテキストだと思う。